作品紹介

最新作

「北のともしび」

2022年/108分/HDV/カラー/ステレオ
監督・撮影:東 志津
音楽:阿部 海太郎
音響デザイン:井上 久美子
日本語字幕:吉川 美奈子
語り:吉岡 秀隆

introduction

 ドイツ第二の都市、ハンブルク。世界有数の港湾都市として知られるこの町の郊外に、かつてノイエンガンメ強制収容所がありました。第二次世界大戦勃発の前年(1938年)、ナチ・ドイツによって設置された強制収容所のひとつで、ナチスの迫害を受けたユダヤ人や捕虜、政治犯など、1945年の終戦までの間におよそ10万人もの人々が収容されました。

1944年11月28日。ここに、アウシュヴィッツ強制収容所から20名の子どもたちが送られてきます。収容所で親を失い孤児となった子や、家族と引き離されて連れてこられた5歳から12歳の10人の男の子と、10人の女の子。フランス、オランダ、イタリア、ポーランド、スロヴァキアと、生まれた国は様々でしたが、皆、ユダヤ人の子どもたちでした。彼らは、“結核の人体実験”のために集められた子どもたちだったのです。

大切なのは考え続けること、そして、忘れないこと

 過酷な実験で衰弱した子どもたちは、ドイツの敗戦が迫る1945年4月20日の夜、ナチ親衛隊によって殺害されます。「人体実験」という非人道的な行為の“証拠”を残しておくわけにはいかなかったのです。廃墟となった小学校、“ブレンフーザー・ダム”の暗い地下室で、誰にも知られずこの世から姿を消された子どもたち。彼らの存在は、戦後、長い間、世間に知られることはありませんでした。

時代が変わり、この惨劇に光が当てられるようになったのは、1970年代の末頃から。ある一人のドイツ人ジャーナリストが発表した子どもたちについてのルポルタージュがきっかけでした。ノイエンガンメ強制収容所とブレンフーザー・ダムは現在、記念館へと姿を変え、多くの見学者や研究者を受け入れています。耐え難い運命の犠牲となった20人の子どもたちと、彼らの死を忘れまいと行動するドイツ、ヨーロッパの人々。死者と生者との出会いから生まれたのは、未来を照らす小さな希望でした。世界がどんなに変わっても、人間が決して手放してはいけない大切なこととは何か―問い続ける人々の姿を、ハンブルクの美しい風景とともに描く長編ドキュメンタリーです。


「美しいひと」

2013年/116分/HDV/カラー/ステレオ
 監督・撮影:東 志津
 整音:永峯 康弘
 題字:赤松 陽構造

 1945年8月6日と9日、米国によって投下された原子爆弾は、広島と長崎に居住していた無辜の人々の尊い命を奪った。その中には、日本人だけでなく、朝鮮半島出身者や、捕虜として連れてこられていた欧米の兵士たちも数多くいた。彼らはあの瞬間、何を見たのか、その後の人生を、どんな思いで生きてきたのか。福岡、韓国、オランダを訪ね歩き、原爆を生き抜いた人々の最後の瞬間に立ち会いながら、生き残ることができなかった人々の不在に迫る。


「花の夢 —ある中国残留婦人—」

2007年/97分/DVC/カラー/ステレオ
 監督・撮影:東 志津
 音楽:横内 丙午
 語り:余 貴美子

 ・キネマ旬報ベストテン(2008年) 文化映画部門第9位
 ・あいち国際女性映画祭 愛知県興業協会賞(観客賞)
 ・ヘルシンキドキュメンタリー映画際 正式招待

 東京・江東区に暮らす栗原貞子さんは、1944年、18歳の時に、「満蒙開拓女子義勇隊員」として満州(現・中国東北部)に渡った。「8ヶ月の訓練を終えたら帰ってもいい」という約束だったが、帰国は許されず、現地の日本人男性と強制的に結婚させられる。その後、戦況悪化で男性たちは出征し、開拓団には女性と子ども、高齢者だけが残された。その後、ソ連軍の侵攻で行き場を失った人たちは、軍に保護されることもなく、中国の大地に野ざらしとなり命を落としていった。その時、栗原さんは妊娠8ヶ月だった。

 敗戦の混乱の中、生きるために中国人男性と再婚し、その後40年以上もの間、日本への帰国が叶わず“中国残留婦人”となって生きた女性たちの半生を通して、戦後の日本が置き去りにしてきた“もうひとつの戦後”を描き出す。